DTPab

印刷やデザイン、アドビ製アプリやスクリプトなど、雑多な技術ブログ

Adobe Firefly Camp参加レポート

3/25、「Adobe Firefly 公開1周年記念 みんなで学ぼう生成 AI と著作権!」と題するウェビナーを聴講しました。

firefly-camp.connpass.com

β版がリリースされて1年経ったAdobe Firefly(以下、単にFirefly)について、アドビの轟さんとデザイナーの木村さんをMCに、法律の専門家*1をお招きして、著作権の観点からFireflyは実際どこまで安全なのか、使用するうえで注意すべき点があるか、といった話を聞くことができました。
本記事はいち参加者である僕なりのまとめです。

NOTES

本記事に掲載しているセミナーのキャプチャ画像は、事前にブログ掲載の承諾をいただいております。

ウェビナー聴講後の雑感

なんとんなく大丈夫なんだろうなと思っていた著作権と生成AIの関係性を、法律の実務家の方から直接伺えたことで、改めてその後ろ盾がもらえた感じです。Fireflyを使えば著作権侵害を心配せずに済む、という話ではなくて、著作権侵害について理解した上でFirefly(をはじめとする画像生成AI)を適切に使うことの重要性と、その実務的な考え方の輪郭がはっきりした、と言うべきでしょうか。
ウェビナー自体はアーカイブ公開されており、無料で視聴できます。本記事は筆者の視点からのまとめなので、正確な話はぜひウェビナー本編でご確認ください。

クリエイティブワークにおける注意点

アドビはFireflyを(画像の学習に著作権侵害になるようなものが使われていないと言う意味で)安全ですと言い切っているのですが、本当にそうなのか、というのが筆者のいちばんの懸念事項でした。
今回のウェビナーでは、Fireflyで生成した画像を基に、クリエイティブワーク(商用としてのデータ作成やアートとしての作品の作成)で用いることを主眼に置いて、関連法規や注意点が説明されました。

Fireflyの学習データセット

Fireflyの学習データセット

Fireflyは、商用利用の安全性を意識して設計されているそうで、AIを学習させるデータセットをコントロールしています。

  • Adobe Stockの画像(エディトリアルは除く)
  • パブリックドメインの作品
  • オープンライセンスされた作品

Adobe Stockの画像は、著作者と契約してライセンスを取得した画像になっています。ただし、エディトリアル(報道などで利用されるもの)は学習データセットに入っていません。
このように謳っているので、生成される画像が「他人の著作権を侵害して作られたものではない」と安心できますね。

法令関係の整理

そうは言っても、著作物にまつわる法令関係は理解しておくべきです。ウェビナーでも丁寧に解説されていました。

知的財産権

知的財産権

知的財産権を保護する法令にはいろいろなものがあります。

  • 産業財産権
    • 特許権
    • 実用新案権
    • 意匠権:工業・商業製品やUIなどのデザイン
    • 商標権
  • その他の知的財産権
    • 不正競争防止法
    • 著作権
    • 商号
    • …etc

著作権はいわゆるアート(単一の作品)を保護するもので、例えば車のデザインなどは意匠権として保護されます。

著作権

著作権

著作権法上の権利には、著作者の権利(著作権)と、著作隣接権があり、著作権は作品を作った時点で生まれます*2

  • 著作権法上の権利
    • 著作隣接権
  • 著作者の権利(著作権)
    • 著作財産権
      • 複製権
      • 上演権
      • 演奏権
      • 公衆送信権
      • …etc
    • 著作者人格権
      • 同一性保持権
      • 公表権
      • 氏名表示権

Fireflyをクリエイティブワークに利用する上で注意すべき権利は、おおよそ下記のようになります。

  1. 利用した画像が著作権を持っているか
  2. それを複製する権利があるか(複製権)
  3. それを改変する権利があるか(同一性保持権)

そもそも、利用する画像がパブリックドメインやオープンライセンスの作品であれば(画像を利用することについては)問題ないわけです。Fireflyがこのような著作権を気にしなくてよいものを学習データセットに使っている点は、ひとつ大きなアドバンテージになろうかと思います。

著作物とは

著作物とは

著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの、とされています。
著作物の要件は、下記のとおりです。

  • 思想又は感情(単なるデータや事実は著作物になれない)
  • 創作性
  • 具体的な表現(アイディアや作風は著作物として保護されない)
  • 文芸、学術、美術、音楽の範囲(実用品のデザインは著作部ではない)

著作権侵害とは

著作権侵害の成立

以下のすべてが認められると、著作権侵害が成立すると考えていいようです。

  1. 依拠性(わざと真似すること)
  2. 類似性(創作的な表現部分が似ていること)
  3. 法律に定められた利用行為

依拠性・類似性がどれほど認められるかは、ケース・バイ・ケースのようです*3

著作権の有効期間

著作権の有効期間

原則、著作者が生きている間および死後70年間となります(日本の基準、例外もある)。

Fireflyをどのように使うか

AI利用における著作権侵害の判断

結局のところ、AIを利用して画像を生成して(それを自分の作品だと発表して)も、著作権侵害となるかは、その作品そのもので判断されます。作品そのものとは、AIを利用したかどうかではなく、作品の依拠性と類似性によって判断されるということです。
Fireflyを使おうが、他の生成AIを使おうが、最終的に自分の作品として発表する、もしくは制作物を商用利用するにあたり、それが著作権的に問題ないものなのかどうかは、作った側が責任を持って判断するしかありません。
ウェビナーでは、例えばGoogleの画像検索を行うとか、そういった手法も紹介されていました。

個人的には、自分のインプットの一つとしてFireflyを利用する分にはあまり心配することがないな、と感じました。Fireflyで生成した画像に手を加えず、「これが私のオリジナル作品です」と発表することはまずないでしょう。それを企業のウェブサイトや自社製品にそのまま転用することも考えられないと思います。
言うなれば、明確な線は引けない、ということが明確になったウェビナーでした。関連法規とその考え方について学べたことが、僕としては期待通り100点満点の内容でした。

4月にもFirefly Campが開催されるそうなので、次回も楽しみです!

*1:レクシア特許法律事務所弁理士 松井宏記さん

*2:ただし、実務的(裁判にかける際の)視点では、発表した時点が著作物として認定される日付と考えたほうがいいようです

*3:単純に「作品が似ているか」だけではないようです。著作権侵害が争われる事例ごとに、さまざまな状況を総合的に判断されているような印象を筆者は持ちました